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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)196号 判決 1996年2月20日

香川県綾歌郡国分寺町国分409番地の1

原告

日本グローブサービス株式会社

同代表者代表取締役

大林勤

同訴訟代理人弁理士

大浜博

東京都渋谷区神宮前2丁目34番18号

被告

株式会社レナウン

同代表者代表取締役

金田康男

同訴訟代理人弁護士

神谷嚴

吉武賢次

同訴訟代理人弁理士

佐藤一雄

森一郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成2年審判第18000号事件について平成7年6月23日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、「RESCUE」の欧文字を横書きしてなり、第17類(平成3年政令第299号による改正前のもの)「被服(運動用特殊被服を除く)布製見回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品とする登録第2242541号商標(昭和62年2月20日登録出願、平成2年6月28日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、原告は、平成2年10月2日、本件商標について登録無効の審判を請求し、平成2年審判第18000号事件として審理された結果、平成7年6月23日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年7月20日原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  請求人(原告)の申立理由の要旨

本件商標を構成する「RESCUE」は、「救助」、「救難」、「救急」等の意味を有する英語であり、かつ、現今の日本においては、殆ど通常の日本語として定着している。

本件商標の指定商品中には、例えば、救助隊員用被服、消防要員用被服、山岳救助隊員用被服、救急用毛布等救難用または救急用として製作販売されるものが多数存在する。

してみれば、本件商標の登録は、その商品の用途(救助用、救急用等)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標についてなされたものといわざるを得ず、商標登録の要件を欠くものである(商標法3条1項3号)から、商標法46条1項の規定により無効とされるべきである。

(2)  判断の内容

<1> 甲第1号証、第2号証、第4号証ないし第12号証(本項では、審判時における書証番号を表示する。)を総合すれば、「レスキュー隊」は、昭和46年6月に東京消防庁が人命救助を目的として編成した救助隊であって、該レスキュー隊が各地で数々の救助活動を行っている事実及びその活動、訓練に際しては、昭和50年に東京消防庁が製作した、中高層ビルの人命救助用の消防車であるレスキュータワー車及びそれに装備されているレスキューゴンドラやレスキュービームその他各種の機械器具等が用いられている事実が認められ、これらの事実からすれば、「レスキュー隊」あるいは「レスキュータワー車」等の語は、人命救助の目的で作られた隊であり、自動車等であることは、一般世人の間においてもよく知られていたと判断するのが相当である。

そうとすれば、「RESCUE」の語は、それ自体わが国においては馴染みの薄い外来語であったとしても、上記事情よりすれば、一般世人の間においても、「救助隊」を意味する「レスキュー隊」の語などのもとに、「救助」を意味する語として理解されていた語であると認め得るところである。

<2> ところで、本件商標は、前記のとおり「RESCUE」の欧文字よりなるものであるところ、これが「救助」の意味を理解させるものであるとしても、上記意をもって、被服等衣料品を取り扱う業界において、商品の品質、用途等を表示するためのものとして、普通に使用されているという事実は、請求人の提出した証左によっては認めることはできないばかりでなく、他にこれを認めるに足る資料も見当たらない。

この点に関して、請求人は、甲第11号証をあげ、救助部隊が救助用品として調達する「毛布及び保護衣」は、日常の用途には使用されず、救助目的専用である旨主張しているが、確かに、救助用品としての「毛布及び保護衣」は、日常の用途には使用されないであろうことは推認し得るとしても、これらが救助用のものとして、例えば、原材料、製造方法、機能等において通常の商品と特別異なった品質を備えた商品であって、これらにその用途を表示するものとして「RESCUE」の語が普通に使用されているという事実を請求人は何ら立証していないものであるから、同人のこの主張は採用できない。

してみると、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、商品の用途を表したと認識させるものではなく、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものと認めざるを得ない。

<3> したがって、本件商標は、商標法3条1項3号の規定には該当しないものであるから、商標法46条1項の規定により登録を無効とすることはできない。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)<1>は認めるが、同(2)<2>、<3>は争う。

審決は、商標法3条1項3号の解釈を誤り、本件商標の登録を無効とすることはできない旨誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  商標法3条1項3号に該当する商標であるか否かは、当該商標が、「その商品の・・・用途・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であるかどうかということであって、「その用途を表示するものとして普通に用いられている」かどうかということは何ら関係のない事項である。

しかるに審決は、本件商標の登録適格性を判断するに当たり、「商品の品質、用途等を表示するためのものとして、普通に使用されているという事実は、請求人の提出した証左によっては認めることはできないばかりでなく、他にこれを認めるに足る資料も見当たらない。」、「用途を表示するものとして『RESCUE』の語が普通に使用されているという事実を請求人は何ら立証していない」として、「RESCUE」の語が「商品の品質、用途等を表示するためのものとして、普通に使用されているという事実」の有無のみを問題にして、本件商標の登録を無効とすることはできないとしたものであって、商標法3条1項3号の解釈を誤ったものである。

(2)  被告が主張するような事項は、審決には何ら示されていないが、仮に、審決がその結論に至る過程において、被告が主張するような判断がなされているのであれば、結論に至る判断の重要な部分が審決書に記載されていない点で、商標法56条1項において準用する特許法157条2項4号に違反するものであり、この点でも取り消されるべきである。

(3)  被告は、「RESCUE」なる語は本来的に用途を表すものではない旨主張するが、「RESCUE」なる語を用途表示のために使用している例、又は用途表示用語として日本語化している例は多数存在する。また、一般の商品がそのまま「救助用商品」として販売されている例はいくらでもあり、「救助用商品」であることと、「救助用としての特別の機能、品質」を備えることとは無関係である。

したがって、審決がその結論に達する前提として、被告の主張するような判断があったとしても、その判断自体失当であるから、審決の結論が誤っていることに変わりはない。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1及び2は認める。同3は争う。審決の判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

「RESCUE」なる語が仮に「救助」の意味を有するとしても、これは本来的に用途を表すものではない。もし、「RESCUE用」とでも表示されていれば別であるが、事実はそうではない。このような状況では、「RESCUE」なる語が原材料、製造方法、機能等において通常の商品と特別に異なった品質を備えた救助用の商品に多用されたとすれば、そこで初めて「RESCUE」が機能等を表す語として扱われることになるのである。

審決は、上記の点を前提として(このことは審決の理由から明らかである。)、本件商標の商標法3条1項3号該当性を判断したものであって、審決に原告主張の誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は、書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因の1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  審決の理由の要点(2)<1>(「RESCUE」の語が、一般世人においても、「救助」を意味する語として理解されているとの認定など)については、原告の認めるところであり、審決掲記の証拠によれば、上記認定に誤りはない。

(2)  ところで、ある登録商標が、商標法3条1項3号に規定する「その商品の用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するか否かは、当該登録商標とその指定商品との関係において相対的に決せられるものと解されるが、「RESCUE」という語は上記のとおり「救助」を意味する語であって、それ自体は何ら用途を意味する語ではないし、一般的に、本件商標の指定商品である「被服(運動用特殊被服を除く)布製見回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」との関係においても、その用途を想起させるような表示であるということもできない。

したがって、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、商品の用途を表したと認識させるものではなく、自他商品の識別機能を果たし得るものと認めざるを得ないとした審決の認定、判断に誤りはないものというべきである。

原告は、「RESCUE」なる語を用途表示のために使用している例、又は用途表示用語として日本語化している例は多数存在する旨主張するところ、成立に争いのない甲第6号証(「近代消防」1990年9月号 全国加除法令出版株式会社発行)には「レスキューツール」という用語が、同甲第7号証(「英和海事用語辞典」 海文堂出版株式会社発行)には「rescue signal light」という用語がそれぞれ記載されていることが認められるが、この事実から直ちに原告の上記主張を肯認することはできないし、まして「RESCUE」なる語が一般的に「救助用」ということを意味するものと認識されていないことは明らかである。

(3)  原告は、審決が本件商標の登録適格性を判断するに当たり、「商品の品質、用途等を表示するためのものとして、普通に使用されているという事実は、請求人の提出した証左によっては認めることはできないばかりでなく、他にこれを認めるに足る資料も見当たらない。」、「用途を表示するものとして『RESCUE』の語が普通に使用されている事実を請求人は何ら立証していない」と説示した点を捉えて、審決は「RESCUE」の語が「商品の品質、用途等を表示するためのものとして、普通に使用されているという事実」の有無のみを問題とするものであって、商標法3条1項3号の適用を誤ったものである旨主張する。

確かた、登録商標が、商標法3条1項3号の「その商品の品質、用途等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であるか否かは、当該登録商標に係る標章が、一般人によって、その指定商品の品質、用途等を表示するものとして認識されているか否かによって決せられるべきであって、その標章が現実に商品の品質、用途等を表示するものとして使用されている事実が存在することまでが必要とされるものではない。

ところで、審決の「本件商標は、・・・『救助』の意味を理解させるものであるとしても、上記意をもって、被服等衣料品を取り扱う業界において、商品の品質、用途等を表示するためのものとして、普通に使用されているという事実は、請求人の提出した証左によっては認めることはできない」、「確かに、救助用品としての『毛布及び保護衣』は、日常の用途には使用されないであろうことは推認し得るとしても、これらが救助用のものとして、例えば、原材料、製造方法、機能等において通常の商品と特別異なった品質を備えた商品であって、これらにその用途を表示するものとして『RESCUE』の語が普通に使用されているという事実を請求人は何ら立証していない」との説示に照らすと、審決は、「RESCUE」の語が一般的には被服等衣料品の品質や用途等を表示するものとは認識されていないことを前提とし、仮に被服等衣料品を取り扱う業界において、救助用のものとして、例えば、原材料、製造方法、機能等において通常の商品と特別異なった品質を備えた商品があり、それについてその用途を表示するものとして「RESCUE」の語が普通に使用されているというような事実があれば、上記前提を改める必要もあることから、上記のような説示内容となったものと認められる。

したがって、審決は「RESCUE」の語が「商品の品質、用途等を表示するためのものとして、普通に使用されているという事実」の有無のみを問題にしたというのは当たらないのであって、審決に商標法3条1項3号の解釈に誤りがあるとは認められず、原告の上記主張は理由がない。

また、審決の説示にはいささか説明不足の点もなくはないが、商標法56条1項において準用する特許法157条2項4号に違反するほどのものとは到底認められない。

(4)  以上のとおりであって、本件商標は商標法3条1項3号の規定に該当しないとした審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

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